久米ゼミ 第11期生卒業論文

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『女性議員はなぜ少ないのか―都道府県議会選挙における女性立候補者数に着目した実証分析―』
  • なぜ日本の女性議員は少ないのか?国会の女性議員比率は衆議院に9.5%、参議院に15.7%、同様に47都道府県議会における女性議員比率は2015年6月に全国平均で12.1%と政治参加における男女平等を表す50%には程遠く、依然として低いと言わざるを得ない。
  • 先行研究は冒頭の問いに対して、女性当選者数を従属変数に置いたリサーチデザインを構築し、従属変数に有意な影響を与える変数を探った。しかし、先行研究の様に女性当選者数に着目した場合、有権者の選好と立候補者の意思との混同が生じる。つまり女性議員当選者数と相関関係にある変数を特定することは出来ても、その変数が有権者に影響を与えているのか、それとも女性立候補者数に影響を与えているのかが不明瞭になってしまっている。
  • 一方、本稿では女性当選者数ではなく女性立候補者数に着目することで有権者の女性議員を選ぶメカニズムを捨象し、女性の立候補を促進する要因を特定することを目指した計量分析を試みた。
  • まず初めに「選挙区の定員数が多いほど、女性議員の立候補者数は多くなる」、「選挙区内でのジェンダー観が保守的であるほど、女性議員の立候補者数は少ない」、という二つの仮説を立てた。その後、2015年統一地方選挙の都道府県議会選挙を対象とし、全国1109の選挙区における女性立候補者数を従属変数に、各選挙区における定員数を独立変数に、そして各都道府県の保守的ジェンダー観を代表する変数をコントロール変数に設定した重回帰分析を行った。
  • 分析の結果、以下の様な知見が得られた。
  • まず、各選挙区における定員数が女性立候補者数に有意な正の影響を与えていることが示された。そのため、現在では選挙区の約40%が定員数が1人の小選挙区であるがゆえに女性立候補者は少なく、女性議員数も増えにくいと考察した。そして、小選挙区を統合し選挙区定員数を増やすことが女性立候補者数を増やし間接的に女性議員数の増加に貢献するのではないか、という説を本稿は主張する。
  • 次に、保守的ジェンダー観も女性立候補者数に有意な正の影響を与えていることが示された。先行研究では女性の当選には地域のジェンダー観が大きな障壁となることが指摘されていたが、立候補者数にのみ着目した場合、保守的なジェンダー観は女性の政治参加を促すことが検証された。そのため、女性議員の過小問題を論じる際に有権者と女性立候補者数とを切り分けて考える必要があることを本稿によって示すことができたと自負している。
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『文化活動が人口移動に与える影響―都道府県パネルデータに基づく計量分析―』
  • 近年、地方における人口減少が深刻化する中で、文化芸術資源を活かした地域活性化の取組みが、日本各地で行われている。しかし、文化芸術に投資することが、地域の活力向上にどれほどの効果をもたらすかについて、実証的な分析はなされておらず、文化芸術と地域活性化の因果関係は不明確である。
  • そこで、本稿では、文化活動行動者率が社会動態に与える影響について、3時点の都道府県データを用いたパネルデータ分析を行い、文化芸術が地域活性化にもたらす効果について検討した。このとき、サッカーやテニス、ウォーキングなどのスポーツ活動や、美術鑑賞、楽器演奏などの芸術活動といった文化活動を、活動者数で分類することにした。これは、活動者数によって、社会関係資本の形成度合いが異なると考えられるからであり、複数人で行う文化活動は、地域内のネットワーク・社会関係資本の形成に寄与するため、人口流出を抑制し、社会増加となるが、個人で行う文化活動は、社会関係資本の形成につながらず、社会動態に影響を与えないと考えられるのである。
  • その結果、スポーツ活動・芸術活動を問わず、複数人で行う文化活動については、そのほとんどが、社会動態にプラスの効果をもたらすことが明らかとなった。つまり、文化活動行動者率は社会増加に寄与するのであり、本稿の分析を通じて、文化芸術への投資が、地域活性化に一定の効果をもたらすことが確認されたのである。このことは、文化芸術と地域活性化の関係を明らかにしたといえるのであり、地域活性化に関する従来の議論を発展させたといえる。また、本稿の分析を通じて、「自治体は、文化芸術を通じた社会資本の形成に取り組むことで、地域活性化を推進できる」という政策的含意が得られたのであり、政府や自治体は今後、地方の活力向上に向けて、文化芸術振興を通じた社会資本の形成に努めることが期待される。
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『優しい刑務所―ノルウェーに見る刑務所環境と再犯率関する新仮説―』
  • 世界各国の再犯率の差異を生み出す要因は何か。本稿は再犯率の低下に影響を与える要因を検討し、世界的に有効でより効率的な再犯防止政策は何かを回帰分析、事例研究を用いて提唱・検証することを目的とした。先行研究ではアメリカ国内において職業訓練が再犯率の低下に有意な影響を与えることが示されているが、職業訓練プログラムが実際に全世界的に有効な対策であるか国際比較をすることは容易ではない。そこで、アメリカの職業訓練が再犯防止に影響を与える背景に、「有職者は自立した社会生活を営むことができるために犯罪行為に及ぶことが少なくなる」という因果メカニズムを想定し、失業率と再犯率に関する回帰分析を行った。分析の結果、失業率と再犯率との間には有意な相関関係が存在することが明らかとなったが、同時にノルウェーは失業率と再犯率との相関関係が弱い特異な存在であり、訓練プログラム以外にも再犯率の低下に大きな影響を与える要因が存在する可能性が示された。本稿ではノルウェーの特異な「刑務所環境(囚人の自由度)」に着目し、「囚人の自由度が高い刑務所(国家)ほど、その刑務所(国家)の再犯率は低下する」という自由度仮説を設定し、ノルウェー国内の3刑務所、失業率や国内移民比率等が同程度のアメリカの1刑務所、そして文化や風土、立地等が近似しているデンマークの1刑務所の共通点や差異を記述し、検証を試みた。その結果、ノルウェー国内の3刑務所では私服やCD・DVD等の持ち込み、食料品店での買い物など囚人たちが制約の少ない快適な生活を送ることができる自由度の高さが共通すること、アメリカの刑務所には囚人たちの利用できる娯楽施設がなく、囚人たちの自由度にノルウェーとの差異が存在すること、デンマークはノルウェーと同様に刑務所の自由度が高く比較的再犯率は低い一方、「開放刑務所」という特殊な制度が再犯率の低下を抑制している可能性を明らかにした。以上のことから、再犯率をこれまで以上に低下させるためには職業訓練プログラムという受刑者たちへの失業対策のみならず、「自由度」に着目した新しい刑務所環境づくりが国際的に重要であることが示唆された。
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『独裁者の運命−競合リスクモデルによる支配者の末路の分析−』
  • 本稿の関心は権威主義体制における支配者の末路の規定要因を明らかにすることである。アラブの春に代表されるように、同じような国でも、亡命、収監、処刑等、支配者がたどる末路は多様である。本稿では、計量分析と追加的な事例分析によって支配者の末路と体制変動を起こしたアクターの関係を解明した。
  • 支配者の末路に関する研究は、権威主義体制下の政治過程を理解するものとして認識されてきた。先行研究の多くは、王政、軍政、個人支配体制、政党支配体制といった権威主義体制の下位類型によって支配者の末路を説明している。しかし、体制類型による説明には、体制類型が内生的に規定されている、政権内勢力の効果を過大評価している等の問題がある。
  • そこで本稿では、体制類型に代わる視点として、体制変動を引き起こすアクターに注目し、支配者の末路との関係を分析した。本稿は体制変動を起こすアクターとしてエリートと民衆の2種類を想定し、エリートが変動を起こした場合は支配者の末路は苛烈なものになり、民衆が変動を起こした場合は支配者の末路は穏健のものになるということを仮説として主張する。エリートは組織化された実力を持つため支配者の身柄を確保しやすい一方、民衆はそのような組織を持たない。また、エリートは新政権を形成する上で妨げにならないように支配者を処分する必要がある一方、民衆は国家の安定を優先させ、支配者を処罰しないと考えられるからである。
  • 本稿では、上述の仮説を検証するため、1946 年~2015 年の独裁者550 人を対象とし、生存時間分析の一種である競合リスクモデルによる計量分析を行った。分析の結果、民衆からの変動が起こった場合は支配者の末路は亡命・自然死といった穏健なものになる一方、エリートから変動が起こった場合は支配者の末路は殺害・収監といった苛烈なものになるということが示された。この結果は選挙や体制類型の効果及び体制変動時の暴力や経済状況等を考慮した上でも確認できる頑健なものであった。さらに、東南アジア4ヶ国の変動の過程を追跡・比較することで、本稿の想定する因果メカニズムが妥当であることも確認した。計量分析と追加的な事例分析を通して、変動を起こすアクターと支配者の末路の関係は因果効果、因果メカニズムの双方から支持され、変動を起こすアクターと支配者の末路の間に強い因果関係が存在することを実証した。
  • 本稿では、体制変動を起こすアクターと支配者の末路の因果関係を示した。支配者の末路について体制類型とは異なる説明をし、先行研究とは異なる新たな視点を提示した点、権威主義体制下の政治過程の一端を解明することができた点が本稿の意義であると考える。
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『アメリカ各州における同性婚支持率の決定要因』
  • 2015年6月に「同性婚を認めないことは違憲である」という最高裁判所の判決を以ってアメリカ国内で同性婚が合法化された。性的マイノリティの 人たちによる長年にわたる結婚の権利を求めた戦いに勝利した判決を多くの人が歓迎する中、判決を良いものとしない意見もあった。本稿は、アメリカ50州における同性婚支持率の差を決定づける要因は何かという問いを立て、社会経済的な側面から分析をした。
  • 同性婚が合法化された運びを受けて、アメリカ国内で4分の1を占める福音主義福音派教会の牧師は「私たちは聖書における枠から外れ、法律的、政治的、文化的に再定義した婚姻を受け入れや支持、また同性間における婚姻の取り持ちや結婚式を行うことはない。」と新聞のインタビューに対して答えた。これを踏まえて本稿では各州において福音主義派の人が占める割合が高い州ほど同性婚支持率が低いという仮説を立てた。次に、大学で高いレベルでの教育を受けることによって多角的な視野を得られることから、学部卒の人が多い州ほど支持率が高くなると仮説を立てた。最後に、人種的マイノリティの人々が生活環境にいることにで、より「異質」に対する寛容度が高まると考え、その州における人種的マイノリティの割合が高いほど支持率が高くなると考えた。
  • 仮説を検証するために重回帰分析と事例研究を用いた。計量的な分析として、LGBTの研究を専門に行うカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校ウィリアムズ研究所が公開している2012年度のアメリカ各州における推定同性婚支持率のデータを従属変数として分析を行った。独立変数は仮説で触れた福音主義派の割合、学部卒の割合、そして人種的マイノリティの割合を用いた。また、経済的な影響を統制するために各州の所得格差と一人当たり所得をコントロール変数として用いた。また、分析の確からしさを補強するために、類似した州が独立変数の値によって従属変数である同性婚支持率に差をもたらしているという、差異法を用いた比較事例検証を行った。
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『成功者の要因とは~経営者におけるキャリアの分析~』
  • 現代では、学歴主義や格差社会を嫌う文化が多くなり、多様性を重視する社会になってきた。そんな中で私を含めた若者は、将来の方向性や夢・目標を見つけ辛くなったと言われている。
  • そこで、私はキャリアに焦点を当てることで分かり易く、一つ一つの行動選択がどのようであれば、社会的にも認められる人物(=成功者)に近づけるかを示すことを目的とした。
  • この論文では、「ビジョナリーカンパニー」を先行研究としたうえで、強い意志を持った一貫性のある行動が出来る人物が、最終的には地位と名誉を確立した成功者ではないかと予測を立てた。分析手法として、性格面などのパーソナルンな一面を把握したいので、合意法に基づいた事例研究で「私の履歴書」に登場してくる人物の特徴をまとめた。
  • 結論としては、国家による環境や文化的違いに関係なく、幼少期に経験した苦労体験(内発的・外発的要因のどちらも有効)が、成功者になる素養を身に付けるための基礎段階のきっかけになるという結果に至った。
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『人の悪口で選挙に勝てるのか ネガティブキャンペーンが投票行動に与える影響とその効果について』
  • 本論文は、「ネガティブキャンペーンで得票を集めることが出来るのだろうか」という問いから、ネガティブキャンペーンが有権者の投票行動に与える影響を、実験を用いて検証したものである。
  • 先行研究には、ネガティブキャンペーンは有権者に投票意欲を減退させると主張するものも、促進させるというものも存在する。しかし、ネガティブキャンペーンに影響を受けた有権者がどの候補者に投票するかまでは言及されていない。そこで、Goldstein and Freedman(2002)の先行研究「政治的情報量・教育レベルの低い人・党派心の薄い人がネガティブキャンペーンにより政治参加を促進される」という主張に着目し、Downs(1956)の理論を用いて政治参加促進のメカニズムの解釈を行った。そして、このメカニズムを用いて「政治的情報量が少ない人ほど、ネガティブキャンペーンを行っている側の候補者に投票する」仮説を立て、実験による検証を試みた。
  • 被験者は、早稲田大学の在学生を中心とする101名である。実験参加者101名を統制群と実験群の2つのグループに無作為に分類し、架空の国政選挙を想定して投票を行ってもらった。実験手順は以下のとおりである。まず、架空の候補者A.B(以下、A, B)2人の選挙公報を読んでもらい、一回目の投票を行ってもらった。この時、実験群には情報量の少ない選挙公報を、統制群には情報量の多い選挙公報を読んでもらった。その後、Bが行ったとする、架空のネガティブキャンペーンを含む演説を読んでもらい、二回目の投票を行ってもらった。実験参加者のほとんどが早稲田大学の在学生・卒業生であったために、参加者の政治的情報量の水準が、一般的な水準よりも高いことが予測された。そのため、与える選挙情報に差をつけることで、政治的情報量の統制を図った。
  • 実験結果を統計的に処理した結果、以下のような見解が得られた。第一に、仮説と反して、ネガティブキャンペーンの効果に有意な影響を与えないことがわかった。第二に、ネガティブキャンペーンには、政治的情報量の多少にかかわらず、有権者の投票行動に有意な影響を与える上に、自身の得票を減少させてしまう効果があることがわかった。以上の結果から、以下のような考察をすることが出来た。第一に、ネガティブキャンペーンは自身の好感度を下げてしまう効果があることが予測されること。第二に、有権者はキャンペーン内容の妥当性を判断する前に、出会った情報の印象で投票行動を決定している可能性があること。これら実験結果と知見を鑑みると、ネガティブキャンペーンで選挙に勝つことは難しいという結論に至った。
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『福祉支出は内戦の発生を抑制できるか?-金と努力、平和はどちらを好むのか-』
  • 内戦の発生および抑止要因については様々な研究がなされているが、一つの主張として、福祉サービスを国民に手厚く提供して国民の生活水準を改善することで、内戦を起こす動機をなくすことで内戦の発生を抑制できるというものがある。しかし、福祉支出の量と内戦の発生の関係は、背後に政府の能力の影響を受ける疑似相関であり、福祉支出の量の多さが内戦を抑制していない可能性がある。また、内戦の発生要因である動機よりも、内戦を抑制する鎮圧メカニズムのほうが重要であるという指摘もある。そこで、本稿では政府の能力を統制して計量分析を行った。統治能力の高い国家においては福祉支出によって国民の不満が和いでも和らがなくとも、そもそも反乱の鎮圧にすぐれているため内戦には至らないと思われる。一方統治能力の低い政府の下では、そもそも福祉サービスは適切に提供されないこと、生活の不満以外の動機から生まれる反乱を発見・鎮圧することが難しくなることがあると思われた。実際に計量分析を行ったところ、福祉支出が内戦を抑制するという結果は得られなかった。一方、政府の統治能力の有効性は多くの場合、特に発展途上国において内戦の発生を抑止していることが確認された。内線の当事者になりそうな国にとって統治能力の改善は、内戦を避けたいのであれば絶対に必要なことであるといえる。
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『日本における選挙買収 パネルロジット推定を用いた原因の究明』
  • 選挙買収と聞いて何を思い浮かべるだろうか。時々新聞などのニュースで報道されることがある。恐らく政治とカネの問題など、あまり良いイメージはないはずだ。しかし、日本の選挙買収の研究蓄積は浅くその詳細な実態や要因は一体何なのかを知っている人は少ない。本稿はそんな現状を打破し新たな知見を見出すことを目的としている。
  • 海外の先行研究を概観すると、途上国における買収の分析は比較的豊富である。しかし、貧困率や教育格差が買収を増長するという主張が多く、そういった水準が高い日本においては当てはまりにくい。そこで投票行動論の理論をもとに、独自に仮説を三つ構築した。一つ目は、選挙が接戦になるほど選挙買収は起きやすいという仮説である。接戦時に投票率が上昇することは確認されている。また候補者が集票のため違法な手段にも手を染めてしまうと推測できる。二つ目は、一票の価値が高いほど選挙買収は起きやすいという仮説である。議員定数不均衡問題と同様、一票の価値が高ければ有権者一人当たりの影響力は大きいので、候補者が買収を行うインセンティブは高まる。三つ目は、選挙区が地方であるほど選挙買収は起きやすいという仮説である。都市と地方では、所得・人口・産業・インフラで格差がある。こういった地域差によって買収の発生は変化すると予測できる。
  • 以上三つの仮説を検証するため計量分析を行うが、そのためにはまずデータセットを構築することから始まる。データセットの不完備性から選挙買収などの犯罪研究は敬遠されがちであるが、新聞データや各種統計を寄せ集めてオリジナルデータセットを作成することでこのハードルを克服した。1996年から2012年の衆議院議員選挙小選挙区を対象に、候補者別パネルデータを用いたロジスティック回帰分析を行った。分析結果は、選挙の接戦・一票の価値・都市化度の3つ全てが選挙買収に有意な影響を与えていることが確認できた。従って、仮説は支持された。
  • 本稿の研究意義としては、未開拓の領域に確かな一歩をしるしたことにある。途上国とは異なるメカニズムを解明し、日本における選挙買収の新たな理論的枠組みを構築できた。そして、作成したオリジナルデータセットは今後の研究において活用可能なものとなり、今後の研究者にとっては有用なものとなるだろう。また、警察が選挙の監視に当たる際、接戦や一票の価値・都市度に着目すればより一層不正の芽を摘むことができる。学術分野に限らず一般社会に広く反映されることを期待したい。
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『復興援助としてのふるさと納税―東日本大震災被災3県の市町村における災害報道の寄付意欲刺激効果の計量分析―』
  • 本研究では、人々の被災地への寄付意欲は報道に左右されるのだろうかという点への関心から、東日本大震災における被災三県の災害報道数と資金援助額の関係の実証分析を行った。昨今、資金援助形態は多様化しており、義援金や寄付金に加え、ふるさと納税による援助が急増している。日本赤十字社や中央共同募金会といった義援金受付団体を通じた間接的な援助とは異なり、援助したい地域に直接資金を届けることができるのである。そこで、個人の寄付行動に災害報道が与える影響を明らかにすべく、被災地への直接的な資金援助の方法の一つであるふるさと納税に着目した。報道により現地の状況を認知した人々が寄付意欲を刺激され、該当地域に対して資金援助を行うという理論から、「災害報道数が多い市区町村ほどふるさと納税額が多い」と仮説を立て、重回帰分析を行った。その結果、震災関連の報道が多くなされるほどふるさと納税の受入金額が上がるという仮説は支持されないという結果が得られた。なお、死者数と人口はそれぞれふるさと納税受入額に有意な影響を与えていた。仮説が支持されなかった理由として、個人の寄付者が寄付先を決定するにあたって、災害報道を逐一確認しているわけではなく、偶然、死者数といった被害規模に関する情報を得た際に、甚大な被害を受けた地域を援助しようと寄付を行うことが考えられる。また、東日本大震災に関する情報収集の方法としてはテレビや新聞が主であり、ネットニュースに対する信頼度が低かったことも挙げられる。今後の課題として、テレビ報道と新聞報道を加えた分析や、アンケートや実験を用いた個人レベルでの分析を行うことが望ましい。そうすることで、災害報道が個人の寄付行動に与える影響について、より一層深い見地が得られると思われる。
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『ソフトパワーが国民意識に与える影響―サーベイ実験から読み解く―』
  • 本稿は、ソフトパワーは戦争の抑止に本当に効果があるのかという関心から、サーベイ実験を用いてソフトパワーが国民意識に与える影響を分析したものである。
  • 尖閣諸島有事シュミレーションを用いた実験デザインを用い、各50人の実験群と統制群の2つのグループを作った。実験群には、国民間の相互理解や一体感といった感情を想起させるような、中国に関する記事を読ませる。その後、両者に尖閣諸島における有事のシナリオを提示し、日本政府の対応及び中国に対する感情温度を尋ねた。t検定を行った結果、統計的には有意ではなく刺激の体系的な効果は検出できなかった。
  • では、なぜソフトパワーの影響を確認することができなかったのだろうか。考えられる要因は大きく2点ある。第1に、サンプル数がたりない等実験デザインそのものの不足である。第2に、ソフトパワーが戦争を抑止するという効果は本当に存在しないかもしれないということだ。今回の実験では、統計的に有意ではなかったものの、ソフトパワーの影響は確認することが出来なかった。もし、今後の実験でソフトパワーは戦争の抑止に効果がないということが統計的に有意であると確認されれば、それはアメリカの外交政策に疑問を投げかけるものになるかもしれない。というのも、アメリカの外交政策の基軸は広く民主的平和論に基づいているからだ。その象徴的な例がイラクの民主化政策である。ソフトパワーの代表的な例である自国の政治的価値観や政治制度を押し付けることで、民主化させ平和を実現しようとしたが、失敗という結果に終わりイラクは現在もテロが多発している。
  • したがって、本稿はソフトパワーが戦争の抑止に効果があるという当初の仮説を実証することはできなかったものの、ソフトパワーを重視する外交政策に疑問を投げかけるものになったと考える。
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『選挙予測報道のアナウンス効果―第46回衆議院議員選挙におけるバンドワゴン効果を検証する―』
  • 本稿は、選挙予測報道が有権者に与える影響について、とりわけバンドワゴン効果に焦点を当てて検証を行うものである。
  • 選挙における有権者の行動に関する研究は、投票への参加、投票先の決定の2つに大別され、数理モデル、サーベイ調査などの様々な手法を通じて、体系化されてきた。しかし、今回扱う、メディアによる選挙情勢の予想が有権者に与える影響に関しては、1950年代から様々な理論が立てられ、検証されているものの、未だに定説が確立されていない。
  • そこで、本論文では、現職与党が圧勝すると予想された第46回衆議院議員選挙における調査データを用いて、これまであまり用いられてこなかった傾向スコア法によるマッチング分析によってバンドワゴン効果を検証することで、アナウンス効果研究に新たな知見を提供することを試みた。
  • 検証では、2014年の第47回衆議院議員総選挙直後に、全国の有権者から層化二段無作為抽出法で抽出された3000人を対象に行われた、『東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査』の中から、予測報道の影響を受けやすいと考えられる有権者群を抽出した。そのうえで、傾向スコアを用いて調整した2群の対象データ同士をマッチングさせることで、バンドワゴン効果をより正確に測れるようなデザインに再構築し、検証を行った。
  • 結果として、少なくとも、新聞において選挙予測報道を閲覧することは、有権者にバンドワゴン効果をもたらさない、という知見が本論文では得られた。
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『権威主義体制における民主的制度の機能と経済発展の関係―権威主義体制における民主的制度と投資家保護に関する実証分析―』
  • 権威主義体制における民主的な政治制度はどのように機能しているのか、そして、いかにして経済発展に資するのだろうか。本稿は、権威主義体制における民主的な政治制度と投資家保護との関係を計量的に明らかにすることで、上記の問いに対する考察を提示している。こうした問いの解明に取り組んだ先行研究であるJensen(2014)は、権威主義国家を対象とした計量的な多国間比較によって、民主的な政治制度の存在が外部投資家保護の度合いを強めることを明らかにした。Jensenはこの分析結果から、「権威主義体制における民主的な政治制度が民間アクター同士の利害交渉の場として機能しており、その機能を通じて投資家保護を強めることで国内投資と経済成長を促進している」と主張する。こうしたJensenの研究は権威主義体制における民主的な政治制度がどのように機能しているのか、そして民主的制度が良好な経済パフォーマンスをいかにして実現するのかという問いに対する重要な知見・示唆を提示したものであると位置づけられる。しかし、このJensenの研究にはいくつかの問題点が存在している。本稿では、このJensen(2014)に対して批判的検討を加えた上で、投資家保護政策の形成に関与する多様な民間アクターの利害に着目したより精緻なモデルの提示と検証を行っている。新たなモデルに基づいた本稿の分析結果は、以下のような知見・示唆を提示している。
  • まず、権威主義体制における民主的な政治制度がその機能を通じて投資家保護を強め、経済発展に資するという因果経路は普遍的なものではなく、ある一定の条件下でのみ働く限定的なメカニズムであることを明らかにした点である。具体的には、外部投資家と相反する利益を有する経営者や労働者という企業内部のアクター同士の政治的協調が達成されやすい条件下では、アウトサイダーである外部投資家の利益を奪い企業内部者の利益を拡大しようとするため、民主的な政治制度の存在が投資家保護強化という政策的帰結をもたらさないことを、計量分析によって明らかにした。また、この分析結果は他の変数の影響や内生性バイアスを考慮した上で実証された非常に頑健なものであった。そして、この分析結果は、民間アクターの選好のバランスや結合の仕方が異なる国においては、民主的制度が異なる政策的帰結をもたらすことを示している。したがって、本稿は権威主義体制における民主的制度が民間アクター間の水平的な利害交渉の場として機能しているというJensen(2014)の中心的主張に対するより一貫したエビデンスを提示していると言える。
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"Does Social Media determine political parties’ political position? An analysis on SNS and Political Polarization"
  • How does the social media we interact with in daily life affects political parties’ attitudes? As a significant means for political communication, media has been played a major role in politics in the history, and every time it revolves, it usually brings a major change toward the politics. Internet helps developing the social media, which is a platform for users to interact with each other via internet. From a political communication aspect, the emergence of social media results in a new way for political community formation. Yet, the “echo chamber effect” – the opinion inside an internet community tends to be homogenous, imposes a threat to political polarizing the users.
  • The major puzzle of this research paper is how social media affects to political ideological change of political parties. If the political party cares about winning the election and run the office, it is necessarily for them to alter their original position to a more partisan one when the mass polarization becomes a general phenomenon. Therefore, since social media has been proven to enhance the political polarization in individual level, the penetration rate of SNSs service shall have a positive correlation with the party polarization.
  • Meanwhile, many researchers have pointed out the relation between social media and polarization in individual level. However, there are limited discussion on how to observe the degree of mass polarization, and how it affects the political parties on ideology spectrum. Therefore, this research paper also tries to connect the mass political polarization and political party polarization by constructing an index indicating the degree of polarization of the mass.
  • By conducting an empirical analysis, this research paper proves that the SNSs penetration rate has a positive impact on polarizing political parties, yet the interaction between mass polarization and party polarization is still unclear.
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