久米ゼミ 第12期生卒業論文

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『宗教弾圧の諸形態とその帰結』
  • 宗教弾圧は如何なる形態をとり、そして如何なる帰結をもたらすのだろうか。昨今、宗教過激派組織の台頭がメディアを賑わせている。その主たるものはイスラム国(ISLE)であり、その越境性や残虐な報復⾏為、現代的なリクルート⼿法は今や広く認識されている。欧⽶においては近年多くの地域でイスラム国によるテロ攻撃があり、多くの⼀般⼈が犠牲となった。しかし、世界にはイスラム国だけにとどまらずあらゆる国家にあらゆる宗派を持つ宗教過激派組織によるテロ⾏為が⽇常的に発⽣しており、安全保障上の問題として国際的に危惧されている。その背景には、近年増加傾向である政府による宗教弾圧が原因であると指摘されているものの、その被害の実態には国により差異がある。
  • 本稿のリサーチクエスチョンは、如何なる宗教弾圧がよりテロ攻撃の発⽣率を⾼めるのかを検討する。(「1. はじめに」より)
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『内閣支持率が投票参加に及ぼす影響-ARIMAモデルを用いた時系列分析-』
  • 「投票参加」というテーマは常に問われてきた。特に昨年7月に行われた衆議院総選挙では10代が投票権を持つ初めての選挙となり、投票率が注目を浴びた。「投票するか、棄権するか」を規定する要因は何か。代表的な研究者である蒲島(1988)は「町村に住んでいる有権者のほうが投票へ行く」「政治的義務感が高い有権者のほうが投票へ行く」など、様々な要因との関係の実証分析をおこなった。しかし、現在まで内閣支持と投票参加を結び付けた研究は少ない。投票研究に対する経済学的アプローチの中では(山田・飯田、2009、pp141-147)、業績評価投票モデルを挙げ、内閣への評価と投票行動を結び付けているが、あくまで投票方向(「どの政党に投票するか」)の規定要因として内閣への評価を挙げている。なぜ現在まで内閣支持と投票参加を結び付けた研究は少ないのだろうか。議院内閣制という制度的要因があげられる(松本、1992)。議院内閣制の下では、政党支持率のほうが内閣支持率よりも選挙により影響すると考えられる。よって、現在まで政党支持率に焦点を当てた研究が多く、内閣支持率と投票率の関係性は研究されてこなかった。本稿では、内閣支持の投票参加への影響を、政党支持との関係も考慮しながら時系列分析を用いて検討する。(「1. はじめに」より)
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『トランプ氏はなぜ支持されたのか―2016年アメリカ大統領選挙における投票候補者選択に関する実証分析―』
  • 2016年第45代アメリカ大統領にドナルド・トランプ氏(以下トランプ氏)が選ばれた。この勝利は世界中を驚かせ、「トランプ氏の勝利、史上最大の番狂わせの一つ(Trump’s victory ‘one of the biggest political upsets in history’)」というような類の見出しがテレビニュースや新聞を飾った。日本にもこのトランプ氏の勝利は大きな衝撃を与えたが、一方で、投票日の前にアメリカ人有権者を対象に行われた世論調査において、「どの候補者が当選すると思うか」という質問に対し33%の有権者がトランプ氏と答えており、また「自分が住んでいる州では誰が選ばれると思うか」という問いに対しては44%の有権者が「トランプ氏」と答えているというデータがある。前者の質問における「トランプ氏」と答えた割合が、後者の質問の割合よりも少ない理由の一つに、投票前になされていたクリントン氏の優勢を伝える報道や有識者達の発言が影響したと考えれば、後者の質問に対する回答が有権者達の肌感覚を表していると考えることができ、実際にトランプ氏が当選する前から半数弱の有権者はトランプ氏の当選を予想していたことになる。つまりこのことは世界中で騒がれたほど、有権者にとってトランプ氏の当選は想定外な結果であったとはいえないということを表している。ここから2016年アメリカ大統領選挙においては、専門家やジャーナリストなどの有識者が、アメリカ有権者達が求めるだろうと考える大統領と、アメリカ有権者が実際に求める大統領像の間に乖離があったといえる。
  • 本稿では、以上のことをふまえて、アメリカ有権者が有識者らの予想に反してトランプ氏を支持した理由を明らかにする。本稿ではアメリカ有権者らがトランプ氏を投票候補者として選択したことには、経済学者カプランの「合理的な非合理性理論」に基づき、有権者らによる「信念による投票」が影響すると考え、2016年アメリカ大統領選挙において「信念による投票」が見られたことを実証する。さらにオックスフォード大学出版局が2016年の今年の単語に「post-truth」という単語を選出されたこともふまえ、その有権者による「信念による投票」が特定の社会グループや属性に含まれる有権者にとどまらず、多くの有権者にみられた投票行動であったことを明らかにする。(「1. はじめに」より)
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『韓国地域主義投票の考察:高齢有権者から見たホナム・ヨンナム地域計量分析』
  • 1948年、建国以来、韓国はすべて5回の改憲を経て、現在、第6共和国になった。約69年の歴史上、多様な事件と事故を経て、今日に至っている。1987年10月27日に行われた改憲の国民投票後、第6共和国では、大統領直接選挙制へ回復し、地方自治制が復活するなど民主主義が根差し、二回の水平的政権交代を通じて、内容的民主主義を成し遂げたという評価を受けている。しかし、以前の選挙は民主主義VS反民主主義の対立構造だったが、1987年から始まった選挙では、地域主義投票傾向が登場した。特定政党や特定政党候補者に対する支持が地域別に偏重されている現象が継続され、ある地域では反対側政党の候補者が存在しなかった。しかし、最近の選挙では地域別多様な候補者にもかかわらず、現在にも地域主義投票は発見される。
  • そこで、高齢化というキーワードが2012年18代大統領選挙以降に大きく浮上した。最近の選挙は、60代の投票率の増加が保守政権の勝利をもたらしたということが多数の見方だった。当時、60代以上の人口が全体有権者の30%ほどを占めている状況であり、10年前の2002年16代大統領選挙に比べ、20.30代の有権者の規模は10%が減った反面、60代以上の有権者の規模は10%程度増加した(選挙管理委員会2012)。そのため、有権者構成自体で中・高齢層が占める比重が大きいので実際の投票でも彼らの割合が高く表れる。従来、地域を基盤にした理念的支持とともに、有権者の高齢化が選挙結果に影響を及ぼすことになったことが把握できる。しかし、高齢化が政治構図の変化に影響を及ぼすという見通しは以前もあったが、地域単位の分別の上、実際の選挙結果と結びつける研究はまだ多くない。多数の研究が個人の投票行動に注目している。地域の高齢化やその地域の理念的支持の関係を研究することは世界で一番早く高齢化が進行される韓国の政治的構造を把握する祭に必要な作業である。特に、老齢依存費と高齢化指数を通じた人口高齢化の推計を見ると、ある国家が経験してきたことより急速な人口高齢化を経験すると予測される(統計庁2013)にもかかわらず、高齢化によって政治的政策的地形の変化が大きいだろうという漠然とした予測があるだけで、関連性を持っているのかに対する論議は不足しているのが実情だ。
  • 地域の高齢化は、地域の状況を表す指標の中一つであり、老人人口の規模を意味するのではなく、地域内のすべての特性を総合的に示してくれる指標である。人口構造の変化は地域内の産業経済構造、そして教育文化施設などが総体的に反映される。そこで、本稿では、高齢化変数に内包されている地域的特性を統制した状況で、高齢化が左派や右派支持に及ぼす効果を把握する。(「1)はじめに」より)
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『2016年米国大統領選挙における有権者の政党帰属意識』
  • 2016年の米国大統領選挙は、11月9日未明の衝撃の結果とともに幕を閉じた。共和党候補である、不動産王で政治経験のないドナルド・トランプが、オバマ政権で国務長官を務めた民主党候補のヒラリー・クリントンを破り、第45代大統領に決定したのである。ワシントン政界において「究極のアウトサイダー」とも言えるトランプの当選は「現代アメリカ史上最も驚きの勝利」や「アメリカ史上最大の政治的番狂わせの一つ」と言った文言で伝えられた(櫛田、2017)。トランプの勝利がこれだけの驚きと衝撃を持って受け止められた理由は多々あるが、事前の予測や世論調査でクリントンの優位が大々的に伝えられ、米国史上初の女性大統領が誕生するというのが大方の見方であったことが大きな要因であったことに疑問の余地はないだろう。
  • それでは度重なるスキャンダルや失言があったにも関わらず、最終的にトランプが当選した理由は何だろうか。こちらも多くの勝利要因が考えられるが、中でもトランプの当選直後にメディア等が注目したのが「新しいマイノリティ」という存在である。これは白人労働者階級の男性のことであるが、とりわけグローバル化の進展に伴って衰退した、かつての製造業が栄えていた地域に居住する人々のことを指している。人種的・民族的マイノリティからは逆差別を受け、成功を収めている白人からは見捨てられていると感じていた「新しいマイノリティ」のことをトランプはサイレント・マジョリティと呼び、「アメリカを再び偉大にしよう(“Make America Great Again”)」というスローガンの中心に据えようとした(西山、2017)。
  • 興味深いのは、このような白人労働者層は民主党の予備選挙ではバーニー・サンダースを支持していたという主張が聞かれることである。民主党候補であるクリントンではなく、共和党候補のトランプに投票したとすれば、彼らは今回の大統領選挙においてどのような選好を持って投票所に向かったのか。アメリカの有権者はどのようにして今回の投票先を決定したのか。本稿は、このような問いを出発点として2016年の米国大統領選挙において有権者がどのような要因で投票先を決定したかを明らかにする。
  • これを明らかにするため、本稿ではまず歴史的に米国大統領選挙における有権者の投票要因を考察した二つのモデル、ミシガン・モデルと業績評価モデルを紹介する。そして、政党帰属意識と業績評価という代表的な概念に関する二つのモデルの論争点を示しつつ、過去の大統領選挙を分析した先行研究におけるこれらの概念の整合的な関係性を示す。これらを踏まえた上で、2016年の大統領選挙における政党帰属意識と業績評価の関係性を示したのち、それらが投票先にどのような影響を与えているかを考察する。(「1. はじめに」より)
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『投票の不平等は再生産されるのか』
  • 日本における社会階層の再生産はどれほど人々の政治参加に影響を及ぼしているだろうか。この問いに答えるためにはまず社会階層の再生産という言葉を定義づける必要がある。社会階層の再生産とは、端的に言えば「大学を卒業した両親の子は大学を卒業する」や「企業の管理職の父親を持つ子は将来企業の管理職に就く」といったように、子供も本人の努力よりも親の属性等が子供の将来を左右するという概念である。1966年アメリカで発表された1コールマンレポート以来、出身家庭の社会経済的地位(Socio-Economic Status, 以下SESと記述する)とその人の学業達成についての関連がたびたび指摘されてきた。先駆けとなったコールマンレポートの要旨は以下のようになる。つまり、黒人と白人の学力差は、家庭によって生み出されたものであり、学校はそれに影響を与えることができない。これまで両者の学力差は彼らが通学する学校の設備(例えば図書館の蔵書数など)の差に起因するとされていたが、定量的分析の結果その仮説は覆され、出身家庭の影響が学校などの環境よりも強い示された。(若槻ほか、教育社会学への招待 2010年、 p64)
  • 日本における教育格差の存在は、例えば米国のそれと比較しても話題に上ることが少ない。米国では不平等は目に見えるものとして存在するとされる。民族的な分断がそのまま格差として現れているため、米国ではコールマンレポート以来繰り返して教育の不平等についての議論がなされてきた。一方戦後の日本では一億総中流という言葉が存在した。そのような状況下では子供たちの間の家庭環境の差をそれほど意識する必要がなかったということが考えられる。また、学力不平等の存在を確かめるデータを得ようとしても、大規模な学力調査自体が「序列化を招く」といったような意見にさらされるため、忌避される傾向が強い。(若槻ほか、教育社会学への招待 2010年、p65)
  • 本稿では教育社会学において半ば自明となっている、出身階層と学歴収入の関係がどれほど個人の政治的態度にまで影響しているかについて計量分析を用いて実証的に検討する。(「1. はじめに」より)
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『欧州債務危機におけるギリシャ救済がユーロ圏の財政規律与えた影響~モラルハザードの観点から~』
  • 1999年1月に、EUに所属する11の国が通貨同盟に踏み出した。ユーロの誕生である。それと同時に各国中央銀行を統括する欧州中央銀行(ECB)が設立され、各国は金融政策に対する権限を失った。このECBと各国政府の関係性を連邦国家における中央政府―連邦政府の関係性に投影して、通貨同盟がユーロ各国の財政規律にどのような影響を与えるのかについて考える試みがある。その中で最も影響が強いと懸念されるのは、モラルハザードである。ECBや他EU諸国の救済を期待して煩雑な財政運営を行うという借り手のモラルハザードと、救済を期待してデフォルトリスクのある国に対して投資を行う貸し手のモラルハザードである。
  • このモラルハザードを防ぐために、安定成長協定(SGP)でユーロ圏の財政規律が定められている。Koehler & König(2015)は統合制御法(the synthetic control method)を用いてユーロが存在しなかった場合の架空のユーロ各国を作り出し、2010年までの現実のユーロ各国の財政規律(政府債務残高の対GDP比)と比較して、SGPが有効であったことを主張した。
  • しかし、救済の前例ができるとモラルハザードが助長されるという仮説も存在する。2009年10月に誕生したギリシャのパパンドレウ政権が前政権による財政の粉飾を発表したことに端を発して欧州債務危機が起こり、2010年5月に「トロイカ(EU・ユーロ圏・IMF)」によるギリシャへの金融支援が決定した。それ以降ユーロの他の国にも支援が相次いだ。
  • 2010年5月の支援によって、ユーロ各国のモラルハザードに影響はあったのだろうか。Koehler & König(2015)と同様統合制御法によって架空のユーロ各国を作り出し、現実のユーロ各国と2011年前後で比較を行った。
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『独裁者は誰の老後を保障するか―権威主義国における年金政策の給付範囲規定要因に関する分析―』
  • これまで福祉国家に関する議論は、民主主義国の文脈で語られることが多かった。その理由の1つとしては、政治家が選挙に勝利するために市民の再分配要求に応え福祉サービスを拡充してきたからである。裏を返せば、競争的な選挙が無く市民の再分配要求に応える必要のない権威主義国では福祉サービスは拡充せずに私腹を肥やすのではないかと予想できる。
  • しかし世界の国家を見渡すと、権威主義体制の国家でも福祉サービスが整備されていることが分かる。特に年金政策に関しては、権威主義国は民主主義国と同程度に年金政策を施行している(Mares and Carnes, 2009; Knutsen and Rasmussen, 2017)。例えばSocial Security Programs Throughout the World(以下SSPTWと表記)の各国レポートによると、リビアでは国内に住む人全員を対象に年金政策を施行しており、カダフィ元大佐は2011年のリビア内戦で殺害されるまで42年間政権を維持し続けた。リビアのような権威主義国におけるこうした手厚い社会福祉の背景として天然資源収入の存在がしばしば指摘される(粕谷, 2014)が、一方で同じく天然資源収入が多いサウジアラビアでは農家、漁師、家事労働者等が年金政策の対象外となっており、必ずしも全国民に対して福祉が提供されているわけではない。なぜ独裁者たちは私腹を肥やさずにわざわざ国民に資源を分け与えるのだろうか、そしてなぜその給付対象の範囲に差がみられるのだろうか。
  • 本稿では、権威主義体制の下位類型および天然資源収入の多寡が年金政策の給付対象の範囲を決定する要因であることを論じる。具体的には、政党支配型および個人支配型においては天然資源収入が多いと年金政策の給付対象が広がる一方、君主制型では天然資源収入が多いとむしろ給付対象が狭まることを統計分析から明らかにする。(「1. はじめに」より)
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