久米ゼミ 第13期生卒業論文

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『個⼈と⺠主主義を繋ぐものとは―価値観と政治参加に関する実証分析―』
  • ⺠主主義は政治学の研究対象として⻑きにわたり関⼼を集めてきた。しかしこれまでの⺠主主義研究は主に、社会として⺠主的制度が整備されているか否かに多くの関⼼が向けており、その制度を実際に利⽤する市⺠の側にはそれほど焦点は当ててこなかった。
  • 本稿では、これまで国家を主な分析対象としてきた⺠主主義研究において、個⼈を対象とした分析を試みたものである。政治参加を個⼈単位での⺠主主義の質を測定する指標として⽤いた上で、個⼈の持つ価値観と政治参加の関係性を分析した。先⾏研究の知⾒に基づき、政治参加をエリート指導型参加とエリート対抗型参加の⼆種類に分類する。その上で⾃⼰表現などを重んじる脱物質的価値観を持つ個⼈は従来型の政治参加の形態とされるエリート指導参加を選択せずに、より⾃発的な政治参加の形態であるエリート対抗型参加を選択するという仮説を⽴てた。計量分析では世界価値観調査第6 波⽇本調査を使⽤し、回答者というミクロレベルで価値観と政治参加の関係性を検証した。ロジスティック回帰を⽤いた計量分析により、脱物質的価値観はエリート指導型参加の有無には関係しないが、エリート対抗型の政治活動に対してはその参加確率を⾼めるという結果を得ることができた。
  • ではこの計量分析の結果は個⼈単位での価値観と⺠主主義の質の関係を探るという本研究の⽬的に照らし合わせたときに何を⽰すものであるのか。本稿では⺠主主義の質を測定する指標として政治参加を変数として⽤いた。分析において脱物質的価値観がエリート抗議型参加に対し有意に正の影響を与えるという結果が⽰されている。すなわち脱物質的価値観の⾼まりは個⼈の政治参加を促すという形で⺠主主義の質の向上に貢献をしていると⾔える。個⼈に焦点を当てた際、その価値観の変容というあくまで内⾯的な要因がどのようにして社会に影響を及ぼす形で影響を与えるのか解明することが出来た。
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『関ケ原の戦いの計量分析-ロジスティック回帰分析による人文系への応用-』
  • 慶長5年9月15日、美濃国関ケ原において、石田三成率いる西軍と徳川家康率いる東軍の間で大規模な合戦が行われた。世にいう「関ケ原の戦い」である。この天下分け目の戦いの結果、勝利した徳川家康は、その後250年にわたって日本を統治することとなる江戸幕府を開いた。
  • ここまでは、歴史の授業で習ったことのある関ケ原の戦いの概要である。ここで読者方が疑問に思われるのは、政治学と一切関係ないのではないかということではないだろうか。確かに、関ケ原の戦いの研究は、人文系である歴史学における日本史の中で行われるものであって、社会科学系に属する政治学とは一見関係ないかもしれない。しかし、よく考えてみると、現在の政治を規定しているものは、過去の政治が一切影響していないとは言えないのではないだろうか。例えば、現在の日本国憲法体制下の日本が誕生したのは、それ以前の大日本帝国憲法体制下の日本が太平洋戦争という悲劇を経験したことの上に誕生したのである。また、太平洋戦争への道を作った悪しき組織とされる日本陸軍の参謀本部の権限拡大は、西南戦争で西郷隆盛率いる反乱軍に苦戦した山縣有朋の経験が影響していた(伊藤之雄『山縣有朋 愚直な権力者の生涯』)。このように、「今」を規定しているのは「過去」なのである。
  • ここで「関ケ原の戦い」を研究テーマにあげた目的を述べたい。第一は、関ケ原の戦いが江戸幕府創設の契機となった戦いだからである。つまり、「近世」という初めて日本列島規模の国家システムが出来上った時代」(中公新書編集部『日本史の論点』)の大部分を占める江戸時代の始まりを告げたのが関ケ原の戦いだったのである。したがって、この関ケ原の戦いを分析することで、江戸幕府誕生期がどうであったかを解明しようとするものである。第二は、人文科学の分野に、計量政治学という分野を用いた場合、どのような結果が得られるかということである。つまり、古文書による方法論が主になっている領域に、別の方法論を試してみるということである。
  • 本稿の構成としては次の通りである。次の章では、関ケ原の戦いにする先行研究を紹介する。 第三章では、本稿で用いる仮説を述べる。第四章では、ロジスティック回帰分析による計量分析を行い、仮説の検証を試みる。第五章では、分析結果の解釈を試みる。そして、最後の第六章では、本稿の意義や課題について考察するものとする。(「1、はじめに」より)
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『豊かな独裁者は国民を見捨てるのか? 権威主義国家における非課税収入が社会支出に与える影響について』
  • 本稿では、独裁者は国民を暴力によって抑圧的に支配することもできれば、公的医療や公教育などに関わる社会支出を提供することによって寛容的に支配することもできるという点に着目し、どのような状況下で後者の戦略が選択されやすいかを検討している。
  • はじめに、民主主義国家と権威主義国家では、社会支出と経済的豊かさの関係性が異なっており、前者では豊かになるにつれ社会支出が増えるという正の相関関係にあるのに対し、後者では非単調な関係、すなわち、貧困国では、豊かさと社会支出が正の相関関係にあるのに対し、富裕国では、豊かさと社会支出が負の相関関係にあることを指摘する。政治リーダーが提供する公共財と私的財の多さについて論じた代表的な先行研究であるBueno de Mesquita et al.(2003)の権力支持基盤理論(Selectorate Theory)が示唆する権力構造だけでは、権威主義国家における豊かさと社会支出の関係を説明するには不十分であることから、本項では権威主義国家における非課税収入の多さに着目する。国家の収入を非課税収入に依存する独裁者は、国家の収入を市民から税に依存しなくなり、結果的に市民へ応答する必要がなくなるため、社会支出を減らすと考えられるためである。
  • 1980~2014年の110か国の権威主義国家について、固定効果モデルによるパネルデータ分析を行った結果、上述の主張が支持された。権威主義国家において、経済的豊かさと社会支出との非単調な関係が観察されたのは、非課税収入が経済的な豊かさの向上と、社会支出の減少という2つの帰結をもたらすためだということを明らかにした。
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『民主義国家内における所得格差についての分析-格差の影響と制度的要因-』
  • 平成も終わりを迎える2018年現在、世界中の多くの人々に豊かな生活を提供してきた自由主義的・資本主義的な考え方は無意識のうちに彼らに受け入れられている。一方で、彼らの支持する市場原理主義は人々の所得格差を拡大させることも事実である。過去の調査から、先進国・途上国間の格差に限らず、それぞれの国内においても、人々の格差が拡大していることが明らかになっている。
  • ところで近年、所得格差が現行の民主主義体制の質に影響を及ぼしていると思われる事例が多く発生している。トランプ政権の樹立に代表されるようなポピュリズム政党の躍進は全世界で見られ、民主主義体制のあり方が問われている。
  • この「所得格差が国家の統治能力に与える影響」と「民主主義国家内での所得格差の拡大の原因」はそれぞれ現行の民主主義国家にその政治制度の変更を促し得る重要なファクターである。はたして、所得格差は民主主義体制の質を低下させているのか。低下させているとすれば、どのような要因が民主主義国家内で所得格差を拡大させているのか。本稿の目的は、この二つの疑問に答え、民主主義国家の未来を探ることである。
  • 本稿の構成は、以下のようになっている。まず以上の二つの疑問に関する仮説と理論的根拠を述べる。それぞれ仮説1「所得格差 が大きい国ほど 民主義の質 は低い 」仮説2「少数派の意見を表出する政治制度 を持つ国ほど 所得格差 が小さ い」というものであり、理論的根拠としてポピュリズムが民主主義の質を低下させることや福祉制度の制度的硬直性を挙げている。その後に実証分析に移るが、本稿ではレイプハルトの民主主義国家のパターン論を基礎とした分析を行っている。レイプハルトは著書『民主主義対民主主義』の中でコンセンサス型の意見表出の制度が民主主義の質を向上させ、同様に所得格差を減少させると論じているが、彼の用意したコンセンサス型民主主義国家を規定する2つ指標のうち1つの指標は民主主義の質を有意に増加させていないことから、コンセンサス型の民主主義国家であることが民主主義の質に影響しているというレイプハルトの結論には疑問が残る。そこで、レイプハルトと同様のデータセットを用いて新たな枠組みで回帰分析を行なった結果、所得格差と民主主義の質に有意な相関関係が見られ、コンセンサス型民主主義指標は疑似相関であることが判明した。
  • また所得格差を減少させる制度的要因はレイプハルトの言う政府―政党次元のコンセンサス型民主主義指標ではなくよりミクロに見た有効政党数・比例制指数・最小勝利内閣形成率・利益集団多元的指数・議員構造指数であることが判明した。以上は、仮説1と仮説2の部分的な証明であり、未来の民主主義国家の制度をある程度示唆するものである。
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『「トランプ離れ」はなぜ起きているのか―世論調査によるトランプ支持に関する実証分析―』
  • 2018年11月に行われたアメリカの中間選挙で第45第アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏が属する共和党は下院の過半数を民主に奪われた。この背景には2016年の大統領選挙でトランプ氏に投票した有権者がその後を支持しなくなる、いわば「トランプ離れ」が起きていることが推測される。
  • 本稿では、なぜトランプ離れが起きているのかを研究する。フィオリーナの業績投票理論に基づき、トランプ氏が公約に示したが、実現が遅れている医療保険政策と教育政策を選好する有権者がトランプ氏から離れているという仮説を立てた。2018年2月にオンラインアンケートツールのサーベイモンキーを使って集められたアメリカ有権者2857人の世論調査データを使い、T検定とロジスティック回帰分析により、この仮説を検証した。
  • 計量分析の結果、2016年にトランプ氏に投票した有権者同士を比較すると、医療保険政策と教育政策を選好している有権者はトランプ氏への支持が比較的弱く、共和党候補者に投票しない確率が高いことが示された。さらに、環境政策を選好する有権者はトランプ氏への支持が弱く、共和党候補者に投票しない確率も高いことが新たにわかった。公約に示した通りの環境政策を実現していたにも関わらず、環境政策を選好する有権者がトランプ離れしている理由としては、環境保護長官のスコット・プルイット氏の相次ぐスキャンダルがトランプ氏の業績イメージを悪くしたことが考えられる。
  • 本稿では、1980年代にフィオリーナによって提唱された業績投票理論を最新のデータで実証し、トランプ離れの理由を明らかにした。2016年の大統領選挙をテーマに、トランプ氏が支持された理由を明らかにした研究が多い中、本稿はその後のトランプ氏の支持の度合いが変化した理由を実証的に分析した。この研究がアメリカで起きている最新の政治的事象を理解するための一つの足掛かりになることを期待する。
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『農業従事者はなぜ減少しているのか』
  • 農産物や農地の取引を全て市場の原理に任せてしまうと、農家は農業から撤退し、農地が失われることによって⾃然環境が破壊され、⾷料の安定供給を保障しきれなくなる恐れがある。それ故に、この問題は看過できないのである。担い⼿の減少を⾷い⽌め、⽇本の農業を保護するためにはどうすればいいのか。私はこの問題の解決への⽷⼝を探るため、担い⼿減少の原因を探ることにした。それが、この論⽂を書くにあたっての動機である。
  • 本稿は以下のような構成になっている。まず第⼀章で、少ないながらも先⾏研究を⼀つ紹介する。第⼆章ではリサーチクエスチョンを⽴て、第三章ではそれに対する仮説を3つ紹介する。第四章では今回分析に使⽤するデータの概要を説明する。そして第五章と第六章でデータを⽤いた仮説の検証を⾏う。(「はじめに」より抜粋)
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