久米ゼミ 第15期生卒業論文

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『インターネットの利用は人々の生活を豊かにするのか』
  • 急激にデジタル化が進む現代社会において、人々はインターネットの利用を通してデジタル化の恩恵を受けている。しかし、インターネットの利用が人々の生活を豊かにしているかどうかについては検証する必要がある。そこで本稿では、インターネットの利用が人々の経済的満足度、生活満足度、そして幸福度に対して与える影響について World Values Survey のデータを利用して重回帰分析を行った。分析の結果、インターネットの利用頻度が上昇すると有意に経済的満足度が上昇することが分かった。一方で、インターネットの利用は生活満足度を低下させ、幸福度には影響しないという結果が得られた。また、年齢によってインターネットの利用の影響が変動するかどうかを検証したところ、経済的満足度に関しては年齢が上がるにつれてインターネットの利用の正の効果が低減することが明らかになった。生活満足度や幸福度に対するインターネット利用の影響に関しては、さらなる研究が必要であろう。
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『ふるさと納税において善意はどれほどの影響を持つのか?-災害復旧支援を題材とした納税者の心理的インセンティブに関する実証分析-』
  • 本稿では、ふるさと納税制度の意義を捉え直し、ふるさと納税の現状と意義の乖離を指摘する。この指摘を前提として、本来の意義を理解した納税者の想いがふるさと納税による寄附金額にどれほどの影響を与えているか分析する。最後に、ふるさと納税が目指すべき今後の姿を考える。
  • そもそも納税者にとってふるさと納税制度を利用するインセンティブは、大きく分けて経済的インセンティブと心理的インセンティブの2種類存在する。経済的インセンティブはふるさと納税の代名詞とも言える返礼品であり、心理的インセンティブは生産者支援やGCF(ガバメント・クラウド・ファンディング)、災害復旧支援が挙げられる。そして、政府主導のふるさと納税研究会報告書において、当初のふるさと納税制度には納税者の選択・「ふるさと」の大切さ・自治意識の進化という3つの意義があるとされ、そこに返礼品という見返りの要素は見受けられなかった。つまり、ふるさと納税は無償が前提の寄附であり、政府は納税者に心理的インセンティブの働きを期待していた。しかしながら、実際に制度が施行されると返礼品という存在が登場し、多くの納税者はふるさと納税の意義を忘れ見返りに心を奪われるようになってしまった。現状のふるさと納税は返礼品のお得さという経済的インセンティブが先行していると言える。こうした現状は高額返礼品問題や返礼率競争を引き起こし、制度存続を深刻なレベルで脅かしている。今一度、ふるさと納税本来の意義である寄附の側面に立ち返る必要がある。
  • こうした状況下においても、納税者の善意、つまり見返りを求めない寄附の心がふるさと納税による寄附金額にどれほどの影響を与えているか考えた。心理的インセンティブの中でも災害復旧支援に着目し、2018年の災害を題材として2つの仮説を分析した。1つ目は「被災状況が深刻なほど、ふるさと納税による寄附金額が増加する」、2つ目は「被災状況が深刻かつ被災自治体のふるさと納税が認知されているほど、ふるさと納税による寄附金額が増加する」というものである。被災地域の凄惨な状況を認知した納税者の心理的インセンティブが被災自治体のふるさと納税による寄附金額にどれほどの影響を与えるかを見る。
  • 仮説Ⅰの分析結果から、納税者が単に凄惨な被災状況を認知することだけではその被災自治体の寄附金額が増加することはないと分かった。納税者は経済的インセンティブの影響を強く受けており、心理的インセンティブに左右されることは少ないのである。このことは先行研究の結果を踏まえても妥当である。しかし、仮説Ⅱの分析結果から、被災前から各自治体が自身のふるさと納税を認知させておくことが、被災した際に被害状況の深刻さと相乗効果を発揮し寄附金を集める上で僅かばかり有効に働くということが明らかになった。この点は先行研究において全く見られず新しい発見である。本稿から得られた重要な示唆として強調しておきたい。
  • 最後に、今後のふるさと納税が目指すべき姿を考える。このことに関して、納税者・自治体という2つの視点で見ていく。まず、納税者は返礼品の魅力を感じつつも、あくまでふるさと納税の趣旨が寄附であることを忘れず、寄附金の使い道にも関心を持つことが必要である。つまり、共感ファースト・モノセカンドを目指すべきである。次に、自治体は政府の方針に従った上で、積極的に寄附金の使い道を提示し納税者の共感を集めるべく努力する必要がある。ことに災害復旧に関して言えば、被災前の広報はもちろんのこと被災後の詳細な情報開示と情報拡散を行うことで納税者の心理的インセンティブを刺激しふるさと納税の本来あるべき姿を目指す必要がある。納税者・自治体相互、つまり社会全体でふるさと納税の在り方を今一度見つめ直すときが来ているのだ。
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