久米ゼミ 第16期生卒業論文

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『第2次安倍政権は何の「業績」に支えられたのか―アベノミクスと「非与党支持」の有権者の投票行動に着目した実証分析―』
  • 第2次安倍晋三内閣は、憲政史上最長の7年8ヶ月という長きにわたって続いた内閣である。有権者からの安定した支持を背に集団的自衛権の一部容認や「共謀罪法」の制定などの論争性の高い政策を次々と実行したが、その中でも政権の全期間にわたって注目を浴び続けた政策は、大胆な金融緩和政策に代表される特徴的な経済政策「アベノミクス」である。これらの政策を巡っては日々多くの議論が繰り広げられ、ときに意見を異にする陣営に対する手厳しい批判なども見受けられた。「社会の分断」を危惧するような論調も見られる中、各陣営の結束は強固であったように思われる。しかし2017年の第48回衆議院議員総選挙の直後に行われた世論調査によれば、実に1/4の「非与党支持」の有権者が与党候補に投票したと回答した。これはなぜか。
  • 本稿は、政権の全期間継続された「アベノミクス」とその結果としての経済への「高評価」が有権者の投票行動に最も大きな影響を与えたと仮説を立て、計量的に分析、検証を試みたものである。業績評価投票とその近接概念である経済投票は「党派性」の内生性の問題を理論上も方法論上も回避しにくいが、本稿は大村(2018)の手法を援用し、非与党支持者の投票行動に着目することで内生性の問題の回避を狙いつつ、同時に普段の支持政党と本選挙での投票政党の「ねじれ」の要因を探るものである。
  • 結論は以下の通りである。まず、有権者の「経済評価」は、その投票行動に有意に影響しており、景気実感の評価やアベノミクスへの評価が高ければ高いほど与党候補に投票するという関係が有意に確認された。一方でその「経済評価」が集団的自衛権の一部容認などの他の諸政策に比して強力に影響しているかの分析については、仮説と異なる結果となり投票行動に有意な影響を与えていないことが検証された。
  • 考察の際、本稿で利用したデータセットを用いて「非与党支持者」の中で今回与党候補に投票した層の「職業属性」と「アベノミクスへの評価」の関係を確認した。そこでは一般的な想定と異なり、「格差拡大」の影響を受けると思われる層の政策評価が低くないことを確認し、各党の政策と有権者の政策評価のすれ違いの存在を示唆して今後の課題として提示した。
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"Daughters Make Their Fathers Liberal: Japanese Politicians’ Attitudes towards Women’s Issues"
  • Whether daughters make their fathers more liberal in their attitudes is divided in conclusion; Washington (2008) found that daughters make their fathers more liberal in their voting behavior on women's issues. On the other hand, Conley and Rauscher (2013) demonstrated that daughters increase their parents' conservative identification with the Republican Party. These two arguments are contradictory in whether daughters generally make their parents' attitudes more liberal. However, there are two major differences between the two studies. The first difference is the targets of analysis. In the former study, politicians are the subject of study; in the latter, citizens are the target of study. The other difference is the indicator to measure the degree of liberalness. In the former study, a score based on voting behavior on women's issues is used, while in the latter, political party support is used as an indicator. Therefore, the mechanism that daughters make their fathers more progressive in their attitudes may work only in the case of women's rights issues. This study examined how daughters affect their fathers' attitudes by using questionnaire data from a joint survey on politicians conducted by Taniguchi Laboratory and Asahi Newspaper, and unique data including information on the family composition of politicians. The results showed that that Japanese father legislators, whose children are all daughters, are more supportive of the introduction of the optional dual surname system. This study also found that the influence of daughters was limited: daughters did not significantly change parents' attitudes toward the protections of sexual minorities or the legalization of same-sex marriage. This study concludes that the mechanism by which daughters make their fathers' attitudes more liberal only works when it comes to women's issues. In addition, this study is unique in that it was conducted on Japanese politicians. The results of this study were similar to those of Washington (2008) conducted in the United States.
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『美容整形手術が増える国では、幸福度は高くなるのか?』
  • 本稿では、美容整形(※1)は患者の幸福度の向上を促すのか、またもしそうだとすれば、それはいかなる社会においても共通した傾向なのかについて実証的に分析した。
  • 美容投資と幸福度の関係性は、小林2020の先行研究で明らかにされてきたが、美容整形の幸福度への影響を分析するものはあまり多くない。本稿の第一の目的は、その因果関係を明らかにしようと試みるものとする。また、美容整形が生み出す帰結には、宗教など美容整形患者を取り巻く社会の影響が存在すると考えられるが、その所属する社会の差異による美容整形の帰結の差異を、一つの分析を通して明らかにしようと試みた研究は多くない。よって、美容整形と幸福度の因果関係は異なる社会において、その傾向に差異があるのかを明らかにすることを第二の目的とする。
  • 仮説検証にあたっては、オンライン上に公開されている国ごとの2009年から2019年の美容整形回数のパネルデータと幸福度のパネルデータを用いて、固定効果モデルによる分析を行い、患者を取り巻く社会ごとの美容整形と幸福度の関係性を明らかにしようと試みた。
  • 分析の結果、国家において一人当たり美容整形手術回数が増えるほど、幸福度が高くなることは確認できたが、その関係性がその国に根付く宗教によって差異があるかどうかは確認できなかった。
  • 以上より、美容整形は容姿に悩みや不満を抱えている人々にとって重要な役割を果たしており幸福度向上を促していると言えるが、患者を取り巻く社会による患者への影響はより詳細な分析が必要であると考える。
  • (※1) 本稿における「美容整形」に関する記述について、小林(の記述に則り、「美容整形」を医者に掛かる美容への投資とし、「美容整形」に加えて散髪や化粧などの容姿レベルの向上を目的とした全てのお金・時間の投資をまとめて「美容投資」と記述する。さらに谷本(2018)の記述に則り、医者に掛かる美容投資の中でも、メスを使うものを「美容外科手術」、使わないものを「美容医療」、双方にまたがる場合「美容整形」を使う。
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『政治家が若者に与するインセンティブ―政党間競争と世代間問題への政治家態度の関係を探る実証分析―』
  • 本稿では政党間競争の激しさが政治家の世代間問題への姿勢に与える影響について実証的に分析した。
  • 18歳選挙権の成立は少子高齢化社会にある日本の民主主義において政治家が多数派たる高齢者に与し、若年層を軽視するというシルバーデモクラシーのメカニズムでは説明できないものだった。18歳選挙権の成立を説明するものとして本稿は政党間競争の構造が政党にとって若年層に与するインセンティブを与えるという理論を提示する。これは中井(2015)による民族問題における理論を応用したものである。この理論のメカニズムは政党間の競争が激しくなるほどシルバーデモクラシーに対する批判の有効性が上昇し、政党の態度は若年層寄りになるというものである。
  • 本稿では上記の理論を実証するために「政党間競争が厳しいほど政治家の姿勢は若者に協力的になる」という仮説を立ててそれを検証した。仮説検証を検証するにあたっては2017年の衆議院選挙に出馬した政治家の個票データから政治家の世代間問題への態度を抽出し、その政治家の選挙区における前回選挙の競争の激しさが政治家の世代間問題への態度にどのように影響を与えているかを分析した。
  • 分析の結果、前回選挙の競争の激しさと政治家の世代間問題への態度との間には非線形の相関があり、競争が比較的穏やかな選挙区では競争性が高まるほど政治家の態度は若者寄りになるという傾向があることが明らかになった。一方でこの効果は逓減していき、選挙競争の激しさが普通程度になると競争の激しさが政治家の態度に与える影響はほぼなくなるということも明らかとなった。
  • 以上の結果は筆者の提示した理論を部分的に支持する形となった。これは筆者が提示したメカニズムが存在していることと競争の激化によるシルバーデモクラシー批判の有効性の上昇には限界があるということを示唆している。したがって本稿は人口構成における高齢者の割合だけでなく、政党間競争の構造も政治家にとって高齢者、あるいは若者に与するインセンティブになる可能性があるということを示すことができた。
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コロナ対策の緩和はどのように決定されたか―休校措置の緩和に関する実証分析
  • 本稿では新型コロナウイルス感染症対策として実施された教育機関の休業措置が緩和される過程をもとに、政治リーダーの意思決定要因を検討していく。理論的には感染症対策の政策は疫学的指標に基づいて行われる。しかし政策決定の場においては、その社会の状況や意思決定者の性質が影響力を持つことも想定される。 本稿の目的は感染症対策の意思決定要因を疫学的、社会的、または政治的側面からの実証分析を通じて、明らかにしていくことにある。
  • 本稿では新型コロナウイルス感染症対策(以下、「コロナ対策」)として、3月2日から行われた全国一斉休校を起点に、6月の学校再開までの期間において、各都道府県知事が教育委員会を通じて、公立学校に「再開通知」を出すまでの日数を、6つの説明変数をもって分析した。その結果、各都道府県におけるひとり親世帯割合が緩和に向けた意思決定に影響を及ぼすことが確認された。一方で疫学的指標や、政治的指標においてはそれらの影響を確認することが出来なかった。
  • この結果は教育委員会を含む教育機関と政治性の独立を確認するものであると筆者は考える。都道府県知事は教育機関の休業がコロナ対策の上で強い効果を持たないことを認識し、教育機会の保障と保護者の負担軽減を重視したことである。教育委員会の資料においても保護者への負担を考慮し、早期再開を期待する声があった。都道府県知事は教育委員会の意見を尊重し、コロナ対策としての休業措置よりも学校再開に舵を切ったのではないか。しかし、都道府県知事がコロナ対策としての休業措置の効果を認識していた場合には、都道府県知事が自身の政治的パフォーマンスとして学校再開に乗り出したという推測もできよう。
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